◇ 『星神とはどういう存在なのですか?』 それを口にしたのは、師匠のシリウスの元に来てずいぶんと年月が経った頃。自我が目覚めた頃だったとツフィタは記憶している。 というのも、たいていの星神が三歳から四歳の言葉をうまくしゃべれるような年頃の姿で生まれてくるのに対し、彼は、乳飲み子の姿で生まれてきたからである。 彼のような例は、きわめて稀であり、当時の聖樹宮は、この不思議な赤子を最高位にランク付けられているシリウスに預けることにしたのだ。 奇異な目から避けるように、シリウスは彼を育てたため、彼は、ほかの星神と接する機会が少なかった。 自分が、何者であるか。 その疑問が湧いたのは、外見がようやく六歳に成長した頃。自分が、『星神』と呼ばれるものだと知ったときだった。 『…わたしたは、ただ輝くだけだ』 『それは、もう一つの姿のお役目でしょう?』 口をとがらせて、不服をあらわにすると、シリウスは、口元をかすかに吊り上げて、「そうか」と呟いた。 神星界とは、宇宙で輝く「恒星」が、もう一つの姿「星神」として生活している空間である。 特別な用件や、聖樹宮の仕事でもない限り、個々に自由気ままに活動するため、偏屈で一風変わった性格の星神も多い。 「所詮、星神と人間の差異なんてほとんどない生き物なのかもしれない。唯一、異なっていることといえば、すべきことが定められていることだろうな」というのが、シリウスの口癖だった。 『そうかじゃないです。今日は、ちゃぁんとお話してください』 『ふむ。…はぐらかしている、つもりはないのだがな。 では、この…与えられたチカラをもって〈惑星〉に暮らすものを導くことだろう』 と言って、シリウスは自嘲気味に笑うと、 『人に聞くばかりが、知ることではない。機会があれば、一度〈地球〉に行ってみるのもいいだろう。…そうだな、もう少し大きくなったら。 アレは、いずれわれらの注目を浴びるだろうからな。ツフィタが一人で出かけられる頃には、流行になるだろう』 星神の名は、〈惑星〉に暮らす者がつけるもの。 したがって、正式な名前となると長く、かつ言いにくかったりする。そこで、たいていの者は、気に入った部分だけを通称として用いている。 『お師匠さまの名前も、〈地球〉の呼び名ですよね?』 『ああ。なかなかセンスはいいと思うぞ…。お前の名も早く付けられるとよいな』 そう言って、シリウスはツフィタの頭をくしゃくしゃとなでた。 「シ……リウス様。なんだか……目の前が、とてもキレイです……」 奪われた視界がしだいにと戻ってくる。 しかし、ぼんやりとしていて、まだ意識もはっきりとはしない。そして、再び甘い眠りに誘われていく。 綺麗な光の渦。 遠くで、誰かが呼んでいた。 懐かしい、聞き覚えのある声が、「ツフィタ」と――。
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