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† 1 †

 どうして星は輝くの?
 どうしてひとは流れ星に願いを託すの?
 ねえ、どうして…?
 おしえてよう。――シリウスさま

   ◇

 カアアアァァーーン

 物悲しくなるような教会の鐘の音――そんな金属音が鳴り響く濃い藍色の闇と、色とりどりの光の粒が散らばる空間に、彼――ツフィタは立っていた。
 近くに彼以外の人影はない。
 さらに述べるならば、彼の周辺に浮かんでいる数個の白い岩以外、何一つ物陰は見当たらなかった。
 例外なのは、先刻より響いている音とともに彼の頭上を通り過ぎていく、銀色の奇跡。

 カアアアァァーーン…

 龍の啼き声のように辺りにとどろく、寂しげな、おと。
 きっとそれは、神星界(シンセイカイ)を離れ、流星たちがひとり宇宙を巡る旅に旅立つ別れの声――、とツフィタは思っていた。
 神星界――。
 星の意識を人格化した『星神』が住まう世界。また、流れ星と、彗星が飛び立つ場所。神聖な『宇宙樹』を中心にして形成され、ここは、「宇宙の中心」と呼ばれている。
 「宇宙の誕生」と「膨張の出発点」、とも言われているが、神星界の仲間入りをして日の浅いツフィタには、そのへんのところがよくわからない。
 彼が任されている仕事は、宇宙へ大旅行を始めた仲間たちの数を数えて報告するだけで、世界の構成については、詳しく教わっていない。
 だが、そんなことを抜きにしても、思い思いに宇宙旅行ができる彼ら『流れ星』のことが、ツフィタは好きだった。
 旅から帰ってきた彼らは、ツフィタに様々な旅話を聞かせてくれるのだ。
 この間は、今、神星界で流行中の「地球」について話してくれた。今回も、しし座腕の辺りを旅すると言っていたから、また「地球」の話が聞けると思うと楽しみで仕方が無い。
「中級ランクがふたつーーっと。んー…今日は大物が来ないなあ」
 神星界の中央政府。『聖樹宮』の建物が一望できるその場所で、ツフィタは独りごちた。
 彼の外見は、年の頃14、5といったところ。まだ、あどけなさを残す少年は、はちみつ色の癖のない髪と、エメラルドの瞳――いまはその瞳に、詰まらなさそうな感情を映している。笑うと、控えめな性格が如実になるのだが、それも周囲の者にとっては、ほほえましい。
 若草色と紺の制服の上に、深緑色の布地に銀金の糸で大きな五芒星を背中の辺りに刺繍されたローブを着ている。このローブは、ここ神星界に住む星神たちの式服であり、自分の官位を表す唯一のものである。上位から、青銀、朱銀、金、銀、紺、黄……と続き、その〈色〉を授かるには、一定の期間、官位を持つ星神のもとで修行をせねばならない、という決まりがあった。
「シリウス様はこのところ官庁に通い詰めだから、呼んでもらえないし」
 ため息とともに、ローブを握り締める。
 彼は、ついこの間この深緑色のローブを、師であるシリウスからもらった。
 最高位の青銀のローブを身にまとうシリウスは、多忙な人である。そして、神星界の秩序などをつかさどる『聖樹宮』に通い詰め、は珍しくないことだった。最後に自宅に戻ってきたのは、ツフィタにローブを渡したあとに、ごく親しいものを呼んでの祝宴を開いた時だけ。あとは、時折、聖樹宮で見かけるくらいなものだった。

 カアアアァァーーン

「むぅ? 今度はど……」
 音の方角は真上からだった。見上げ、固まる。
 視界いっぱいに、目もくらむ白光の世界。
「エ!?」
 彼が避けるまもなく、めずらしい超上級ランクの『流れ星』は、無情にも彼を、直撃した。
「……」
 ツフィタは意識を手放す。
 彼のローブだけが、『流れ星』の光に照らされて緑銀に光っていた。  

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